令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果(国土交通省)

国土交通省は令和3年3月26日、令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果(注1)を公表した。これによると、令和元年度の個人向け住宅ローンの新規貸出額は約20兆5千億円で前年度比7.4%増、一方アパートローンの新規貸出額は約2兆5千億円で前年度比4.5%減となった。

また、JAの新規貸出においては、個人向け住宅ローンが件数、金額ともに大幅に増加しており、一方アパートローンの件数はやや減少し、金額はやや増加した。

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1.個人向け住宅ローン

(1) 新規貸出

令和元年度の新規貸出額は20兆5,422 億円であり、前年度の減少から1兆4,084億円、7.4%の増加に転じた(各年集計(注2))。また、経年集計(注2)でも新規貸出額は対前年度比4.9%増となっている。
貸出件数は828千件で、前年度の減少から11.0%の大幅な増加に転じた。1件当たりの貸出額は2,481万円で、前年度より3.3%減少した。

図 1 新規貸出額の推移(各年集計)

(注1)この調査は1,274の金融機関を対象として令和2年10月から11月にかけて実施され、1,237機関の回答(回答率97.1%)を得て、集計されたもの。

(注2)「各年集計」とは、各年度の実績の回答があった全ての機関につき集計したもの。
これに対して「経年集計」とは、対象年度の全ての年度の実績の回答があった機関につき集計したもの。

(2) 貸出残高

令和元年度末時点の貸出残高は186兆966億円で、前年度から3兆8,866 億円、2.1%増加した。経年集計における令和元年度末の貸出残高は、対前年度比3.5%増となっている。
貸出件数は11,050千件で、前年度から1,558万件、16.4%と大幅に増加した(各年集計)。1件当たりの貸出残高は、1,684万円で前年度比-12.3%減となった。

図 2 貸出残高の推移(各年集計)

(3) 業態別実績

新規貸出額についての業態別割合については、地銀が件数で30.7%(前年度31.0%)、金額で31.8%(同32.1%)を占めて最も大きなシェアを占めている。
農協は新規貸出件数で6.2%(同6.6%)、金額で6.1%(同5.9%)、貸出残高でも件数で4.9%(同5.6%)、金額で4.5%(同4.4%)のシェアとなっている。新規貸出、残高ともに、金額ベースではややシェアを拡大した。

表 1 業態別新規貸出及び貸出残高(令和元年度)

(4) 新規貸出額の使途別実績

新規貸出額の使途別内訳については、新築住宅向けが72.9%(前年度71.4%)、既存(中古)住宅向けが19.6%(同19.2%)、借換え向けが7.5%(同9.5%)となっており、前年度に比べて新規住宅向けの割合がやや増加し、借換え向けの割合がやや減少した(各年集計)。

図 3 新規貸出額の使途別割合

(5) 金利タイプ別新規貸出

金利タイプ別の新規貸出額については、「変動金利型」が12兆5,289億円、全体に占める割合は63.1%(前年度60.5%)となっており、前年よりやや増加した。
一方、「固定金利期間選択型」の割合が19.9%(同24.3%)と前年度より減少した(各年集計)。

図 4 金利タイプ別新規貸出額

(注3)証券化ローンとは、住宅金融支援機構による証券化支援(フラット35等)を活用し、又はフラット35等以外の証券化により売却済みの住宅ローン。

2.アパートローンの実績

(1) 新規貸出

令和元年度の賃貸住宅の建設・購入に係る融資(アパートローン)の新規貸出額は2兆5,799億円となっており、前年度より1,203億円、4.5%の減少となった(各年集計)。なお、経年集計では12.5%減と、各年集計より減少幅が大きくなっている。

一方、件数は前年度比4.7%増加しているものの、1件当たりの貸出額が6,344万円で前年度比8.8%減となったために、合計の貸出額は減少となった(各年集計)。

図 5 賃貸住宅向け新規貸出額の推移(各年集計)

(2) 貸出残高

令和元年度末の賃貸住宅向け貸出残高は32兆2,417 億円で、前年度末より2兆4,692億円増で8.3%増、件数は58万8千件で、前年度比5万3千件増で10.0%増といずれも増加したが、1件当たりの平均貸出残高は5,480万円と前年度比1.6%減となった(各年集計)。

なお、経年集計では貸出残高が対前年度比0.5%増と僅かな増加にとどまっており、注意が必要である。

図 6 賃貸住宅向け貸出残高の推移

(3) 業態別実績

新規貸出額についての業態別割合については、全体のうち地銀が件数で25.3%(前年度33.4%)、金額で34.6%(同40.9%)と最も大きなシェアを占めているものの、前年度と比べると大きくシェアを落としている。
農協は新規貸出件数において8.6%(同8.9%)、新規貸出額において10.5%(同9.6%)を占め、貸出残高では、件数で12.7%(同13.8%)、金額で11.6%(同12.5%)のシェアとなっている。

表 2 業態別新規貸出及び貸出残高(令和元年度)

3.住宅ローンの商品ラインアップ

住宅ローンの商品ラインアップについては(表3)、19商品のうち、「金利タイプ(変動金利型)」(97.5%)や「金利タイプ(固定金利期間選択型)」(94.4%)、「疾病保障付き」(91.0%)等については、ほとんどの金融機関が取り扱っている。

また、「リバースモーゲージ」や「ノンリコースローン(注4)」については、現在商品と扱っている金融機関がまだ9.4%、2.2%と少ないものの、年々増えてきており、商品化を検討している金融機関が30.1%、11.8%と多い。一方、「金利タイプ(全期間固定金利型)」は、取り扱っていたが廃止した割合が12.3%と高い。

(注4)ノンリコースローンとは、編纂資金は融資対象物件の賃貸収入や売却収入だけを充当するなど、債務履行のための責任財産が融資対象に限定されることを契約に盛り込んだ融資。

表 3 住宅ローン商品のラインナップ

長引くコロナ禍の影響による今後の住宅ニーズの見極め

人口減少や賃貸住宅の過剰供給等によって、全般的には賃貸住宅の空室率が上昇し、経営リスクが高まっている。今回の調査結果ではアパートローンの新規貸出件数は増えたものの、1件当たりの貸出額が減少したために貸出額は減少となった。個人向け住宅ローンも、1件当たりの貸出額が減少しており、いずれも少額化の傾向となった。

今回の調査結果は令和元年度の実績であり、コロナ禍の影響はわずかにとどまっていると見られる。コロナ禍は令和3年となっても収束はおろか、原稿執筆時の4月下旬においても第4波の勢いが増している状況にある。すでにコロナ禍は長期化してきているが、一方でワクチン接種の進行などの期待要素もある。今後新型コロナウイルスの感染者数が減少したとしても、暫くは警戒を続けることになるであろうし、いずれ収束したとしても、生活スタイルや住宅ニーズがコロナ前の状況に完全に戻るとは考え難く、大きな変化をもたらす可能性が高い。

住宅ニーズについては、在宅でのテレワークの普及が進んだものの、業種や企業によってかなり偏りがある。在宅ワークがコロナ収束後も続くのか、あるいは大部分が元に戻るのかの見極めが非常に重要となる。また、在宅ワークに適した郊外の戸建住宅の人気が高まっているとも言われているが、同じ郊外部でも、人気がある地域とそうでない地域があり、地域の動向を踏まえつつ、どちらなのかを見極める必要もある。

住宅ローンについては、返済困難となるリスクに対して、借りる側と貸す側の双方がより慎重になっており、比較的低価格の物件に流れることや、ローンを組むこと自体を避ける傾向が高まるかも知れない。その結果として、賃貸住宅に対するニーズも変化すると見られる。

今後の見極めは非常に難しいとは言え、当面のコロナ禍に耐えつつも、アフターコロナの住宅ニーズに応えられるよう、準備を進める必要がある。

国土交通省「令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査報告書」

令和3年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果