『体験型農園の開設・運営の手引き』の改訂

JA全中では、「体験型農園の解説・運営の手引き(改訂版)」を2月に発行した。
平成28年9月に「体験型農園の開設・運営の手引き」(手引き初版)、翌年11月に「体験型農園の普及と改善 実践虎の巻」を発行し、それ以降、JAが運営または関与する体験型農園が複数開設されてきたが、利用者の獲得や運営効率、期待される効果の発揮といった運営上の課題が見られ、これらの課題に対して有効な方策を打ち出す必要があることから、調査や検討を重ねてきた。今回その成果を、改訂版手引きとしてとりまとめたので、そのポイントを紹介する。

《手引きの構成》
1章 体験型農園の意義と方針
 1)体験型農園の意義
 2)JAグループの体験型農園の位置付けと取組方針
 3)体験型農園の定義
2章 体験型農園の類型と提供サービス
 1)体験型農園の標準サービス
 2)想定ユーザー層による類型
 3)主体及び貸借制度による類型
 4)地域による類型
3章 開設の流れと留意点
 1)園主候補者・農園候補地選定
 2)整備・運営プランの作成
 3)栽培指導等の運営準備
 4)農園・施設等工事
4章 運営の流れと留意点
 1)運営の流れ
 2)利用者の募集
 3)利用者説明会・契約
 4)作付計画
 5)栽培講習会・栽培指導
 6)交流イベント
5章 主な運営上の課題と改善方策
 1)利用者獲得方策
 2)効果的・効率的な運営
 3)体験型農園の効果向上
6章 参考資料

1章.体験型農園の意義と方針

1)体験型農園の意義

農業の将来に対する危機感や持続可能な社会の実現、成熟社会における人々の価値観と行動変容といった社会的な背景のもと、農業者と消費者が価値観を共有する必要がある中で、体験型農園が大きな役割を果たすものとして期待されている。
このような社会的な背景のもと、体験型農園に取り組むことは、農家やJA、地域住民等利用者それぞれにとって大きな意義があり、具体的には次のようなものが挙げられる(図表1)。

2)JAグループの体験型農園の位置付けと取組方針

JAグループでは平成28年に体験型農園の普及に向けた取組方針を決定し、農家主体及びJA主体の体験型農園の普及に取り組むとした(図表2)。

3)体験型農園の定義

JAグループでは体験型農園の定義として、以下の3つの要件を満たすものとしている(図表3)。

図表1 体験型農園の意義

農家にとってJAにとって地域住民等利用者にとって
・農業者の所得増大
・労働負荷の軽減と営農継続
・農業に対するやりがい醸成
・農地の保全と有効活用
・地域住民の農業理解の醸成
・メンバーシップの強化・地域農業振興の応援団づくり
・新たな担い手の確保・育成
・JAの経営基盤の維持
・より気軽に参加できる農業体験の場
・優れた食農教育の場
・多様な“農”の価値の享受
・コロナ禍による変化・ニーズ

図表2 体験型農園の普及に向けたJAグループの取組方針(平成28年8月)

農業者の所得増大および農業振興の応援団づくり等に向けたJA自己改革の一環として、地域の実情を踏まえて従来の市民農園を発展させ、栽培指導などの各種サービスを充実させた「体験型農園」の普及に取組む。
①JAは、農家組合員が農業経営の一環として行う体験型農園の開設・運営を促すため、情報提供等を行う。また、必要に応じて開設・利用者募集・代金回収等の支援を行う。
②JAは、高齢化などで農家が主体となって運営できない場合、自ら体験型農園の運営を行う。

図表3 体験型農園の定義

■要件1:定期的な栽培指導や収穫体験を行う
定期的に栽培講習会や収穫イベントを開催するなど、年間を通した食や農に関する体験を行う。
■要件2:農作業に必要件な設備や農具を設置し、種苗や資材を提供する
農作業をするために必要な給水等の設備や農具を設置し、種苗や肥料・農薬その他の生産資材を提供する。
■要件3:利用者の交流イベントを行う
利用者同士の交流や、多様な食や農に関するイベントを行う。

▶第1章 体験型農園意義と方針(Coasys Note)

2章.体験型農園の類型と提供サービス

1)体験型農園の標準的な提供サービス

標準的なサービスとしては、下図のとおり栽培区画があって、栽培指導、交流イベント、施設・設備整備、管理運営といった一式をセットとして提供する。これらのサービスを適切に提供することで、利用者の満足度が高まり、利用者のマナーが良くなり協力が得やすくなる等の効果も期待できる(図表4)。

図表4 標準的な提供サービス

2)体験型農園の類型

体験型農園の主なターゲット層は、子育てファミリーと中高年夫婦で、子育てファミリーはその多くがライトユーザーであり、中高年夫婦はさらにスタンダードユーザーとハイクラスユーザーの2つに分かれる。想定ユーザー層によって求める農作業の負荷や来園頻度が異なるため、それぞれに応じた区画面積や品目数等の求められるサービスを対応させる必要がある(図表5)。

図表5 ターゲット層による類型

また、開設運営主体が農家またはJA、農地を貸借する場合には特定農地貸付または都市農地貸借円滑化法といった活用する貸借制度によっても、体験型農園を類型化できる。

生産緑地では従来、農地法の法定更新が適用され、貸したら返ってこない、相続税納税猶予が適用されないということがネックとなって、貸借による体験型農園は推奨できないとされていたが、新たな都市農地貸借円滑化法によって、貸しても、確実に返還され、相続税納税猶予が適用されることとなった。併せて、特定農地貸付でも相続税納税猶予が適用されることとなり、生産緑地での貸借による体験型農園の開設が容易になった。

都市や地域の人口規模が大きいほど、農園の商圏内の世帯密度が高いほど、需要が大きく多くの利用者確保と高い収益性が期待できる。このことから、地域特性による類型化もできる。

3章.開設の流れと留意点

一部運営主体や貸借の有無等の違いによって若干異なるものの、体験型農園の流れは概ね下図のとおりとなる(図表6)。

図表6 体験型農園の開設の流れ

運営主体の検討

農園の運営主体については、農家主体(所有地・自立型)を第一優先としつつ、状況に応じて貸借や運営支援、JA主体等様々な選択肢を検討する(図表7)。

図表7 運営主体の検討

園主候補者の掘り起こし

JAは農家組合員からの要望や相談があるのを待つのではなく、積極的に研修会や現地視察等の体験型農園を知ってもらう取組みを通じて、園主候補者・栽培指導者を掘り起こすことが重要となる(図表8)。

農園候補地の評価・選定

農園周辺地域の世帯密度を参考に、基本的には徒歩圏(概ね2km圏)から、さらには駐車場を用意すれば商圏は拡大できる。主たる商圏内に農家主体の農園がある場合は、なるべく競合を避けるべきだが、民間企業農園とは差別化が可能であり、開設を検討すべきである。

区画数・区画面積・区画の種類

体験型農園の収益は料金×区画数で決まるため、少なくとも農家主体の場合は30区画以上、人件費等コストがかかるJA主体の場合は50区画以上としたい。
区画面積は、10~20m程度が標準となるが、ライトユーザーによる需要が増えており、小さめの区画の方が利用者獲得しやすい傾向にある。
基本となる個人区画に加えて、共同区画を設けることで、個人区画での栽培が難しい野菜の栽培や、交流イベントでの活用、コミュニティ形成につながる(図表9)。

図表9 農園の区画等配置例(15a)

施設・設備の検討

農作業に必要かつ快適に過ごすための施設・設備・農具を用意する。ただし、過度なものは初期投資が高額となり収益を圧迫することから、コストを抑える工夫も必要となる(図表10)。

ビニールハウス
休憩施設

収支計画の検討

収支計画の検討については、立地地域の違いによる3つのケースを想定し、収支計算の例を示した。以下に示したのは、Case1の「大都市圏低密度市街地・郊外」の例で、地域ごとの需要の大きさに応じて商圏設定や区画数、料金設定等を変えて、収益確保を図る(図表11)。

図表11 長期収支例:Case1.大都市圏低密市街地・郊外

(注)資金累計では、所得税及び法人税は見ていない。
敷地農地(生産緑地15a)
区画15m²×63区画
利用料金5,500円/月(66,000円/年)
初期投資343万円
収入初年度:277万円(60%)
3年目:471万円(100%)
JA主体型人件費:142万円
3年目(基準年)収支:138万円
資金回収:4年目

農地の貸借に係る手続き

JAが開設主体の場合は、特定農地貸付法に基づく貸借の手続きが必要である。JAが同法に基づく市民農園を初めて開設する場合は、JAの定款変更が必要で、総(代)会決議事項となる(図表12)。

図表12 JAが開設主体・特定農地貸付けの手続き

4章.運営の流れと留意点

体験型農園の1年の運営の流れを示すと概ね下図のようになり、これを毎年繰り返す(図表13)。

利用者募集

体験型農園の開園に先立って、利用者を獲得するために広告宣伝等によって利用者を募集する。開園初年度は農園が認知されていないため、広告宣伝費に相応の予算をかける必要がある。
なるべく低コストかつ反応率の高い広告宣伝方法を選択し、応募状況を見ながら数回に分けて実施する。

徒歩圏においては、主にチラシポスティング、広域ではネットの効果が高い。
応募者に対する利用者説明会を開催し、原則自由な作付けができない等のルールを納得してもらったうえで契約する。

作付計画

毎年栽培する定番作目を中心として地域特産等の品目を加えた作付計画とする。春夏期と秋冬期の2種類、年間10~30種類、連作障害を避けて輪作し、毎年一部品目を変更して、飽きさせないよう工夫する(図表14)。

図表14 作付計画(例)・15m²

栽培講習会

栽培講習会は月2回、年間10~20回程度開催し、季節や作業の忙しさによって頻度を変更する。また、同じ講習会を少なくとも2回開催し、利用者の都合による選択を可能にする。
栽培講習会での説明は、ホワイトボードや配布資料を使い、10~30分程度とする。モデル区画等で実演して、真似てもらうようにする。また、個別指導は初心者を重点的に行う。

栽培講習会

交流イベント

イベントを開催することで、円滑な農園運営に資するコミュニティ形成や地域農業振興の応援団づくりにつながることが期待できる。
イベント例として、春の食事会、収穫祭、共同区画での収穫、収穫野菜の料理や加工教室などがある。

交流イベント

5章.主な運営上の課題と改善方策

運営上の課題と改善方策については、本誌1月号(Vol.322)にも「令和3年度体験型農園の普及と改善に向けた研修会-体験型農園の運営上の主な課題と改善方策のポイント-」と題して掲載した内容とほぼ重複するので、こちらを参照していただきたい。手引きの掲載項目は以下のとおり。

《主な運営上の課題と改善方策(項目)》

1)利用者獲得方策
 (1)エリア別広告宣伝方法
 (2)思考・行動フローに基づくセールス2
 (3)利用者層の拡大
2)効果的・効率的な運営
 (1)体験型農園に適した栽培等ノウハウ
 (2)ICTの活用
 (3)農園利用者の運営参画
3)体験型農園の効果向上
 (1)JAにとっての効果向上-アクティブ・メンバーシップの強化-
 (2)農家(園主)にとっての効果向上
 (3)利用者にとっての効果向上

最後に

詳しくは、「体験型農園の開設・運営の手引き-改訂版-」の本冊をぜひご覧いただきたい。また、その概要として「ダイジェスト」及び解説動画も用意したので、併せて、体験型農園の新規開設や運営改善に役立てていただきたい。

当該手引きのデータは「JAまちづくり資産管理情報ホームページ」に掲載しています。詳しくは本誌巻末をご確認ください。