秦野で初めての体験型農園がJA等支援により開園

(JA全中「JAまちづくり資産管理情報」2018年6月、vol.279号掲載)

<目次>

1.秦野市における体験型農園開園に至る経緯
2.JA等による農園開設支援
3.名水湧く湧く農園の開園にあたって
4.利用者の属性
5.さらなる体験型農園の開設推進に向けて

神奈川県の秦野市において、初めての体験型農園「名水湧く湧く農園」が2018年4月に開園した。

この農園の開園準備にあたっては、JAはだのと連携し、弊社代表畠がアドバイザーとして支援してきたこともあり、あらためてこの農園について紹介したい。

wakuwaku
園主(左)とその家族

1.秦野市における体験型農園開園に至る経緯

秦野市で体験型農園を開園しようと動きだしたのは3年前に遡る。2015年度から3年間にわたって国土交通省の調査事業の一環として、秦野市・JAはだの・コアシスから成る秦野市都市農地保全活用推進協議会が、生産緑地の有効な保全・活用方策の1つとして、体験型農園の開園に向けて取り組んできた。

一方、JA全中においても、2015年12月に「市民農園等研究会」を設置し、そのとりまとめである「JAグループの農園運営に対する取組み方針」として、農家またはJA主体の体験型農園の開設・運営に取り組むとし、引き続き2016年11月に設置された「体験型農園の普及・改善に関する研究会」では、JAはだのも委員として参加し、体験型農園の普及等に取り組んできた。

秦野市には環境省の「名水百選」にも選ばれた「秦野盆地湧水群」があり、この農園内にもその湧水群に含まれる自噴井がある。この名水が湧き出ている農園と、期待や喜びの“ワクワク”を掛けて、「名水湧く湧く農園」と園主自ら命名した。

この農園の園主和田礼子さんは、早い段階から体験型農園の開園に意欲を示していたが、多様な種類の野菜栽培とその指導には不安があった。そのため、開園前の1年間は、体験型農園で想定する区画と作付計画での栽培を予行演習的に実施し、JAはだのの営農技術顧問から栽培指導を受けながら、開園に備えてきた。

農園の入口と看板

利用者の募集は初年度として50区画を募集し、広告宣伝にも力を入れたこともあって、概ね予定区画数の利用者を確保することができ、4月6日(金)から始まった第1回の栽培講習会でも、家族連れなど多くの利用者が参加し、1年目から大変な賑わいとなっている。

体験型農園「名水湧く湧く農園」の開園に至る経緯

2015年度

国土交通省「集約型都市形成のための計画的な緑地環境形成実証調査」の1つとして、秦野市都市農地保全活用推進協議会が「秦野市における都市農地の公共財的活用モデル実証調査」を実施し、生産緑地の有効な活用方法の1つとして農業体験農園を提案。

2016年度

引き続き、国土交通省調査事業として、平成28年度「秦野市における都市農地の公共財的活用モデル実証調査」を実施し、その一環として、農業体験農園の開園に向け、練馬区農業体験農園園主会の協力を得て、秦野市内農家を対象に以下の取組みを実施。

  • 9月12日:全国農業体験農園協会理事長加藤義松氏の講演(場所:JAはだの本所)
  • 10月8日:練馬区農業体験農園視察
  • 11月19日:体験型農園に関する市民アンケート実施
  • 12月9日:体験型農園候補地での意見交換会

2017年度

引き続き、国土交通省調査事業として、「秦野市における農業体験農園等を拠点とした都市農地の担い手育成と貸借推進方策検討調査」を実施し、その一環として、第1号体験型農園の開園に向けた取組みを実施

  • 6月2日:3者現地打ち合わせ(3者:園主、JA、コアシス);以降、原則月1回打ち合わせを実施
  • 7月20日:小平市農業体験農園視察
  • 9月:整備運営プランの検討
  • 10月:作付計画、区画計画、年間スケジュールの検討
  • 11月:プランの詳細、内容確定
  • 12月14日・15日:体験農園視察(広島市・東広島市)
  • 12月下旬:利用者募集開始(チラシ配布開始、ホームページ、Facebookページ開設)
  • 1月:秦野市広報、「タウンニュース(秦野市版)」、JAホームページ等への掲載
  • 2月1日:申込み者への案内
  • 2月下旬:JAによる准組合員へのチラシ配布、施設設置:パイプハウス(農具庫、講習室)、トイレ
  • 3月3日:利用者説明会、プレオープン祭開催

2018年度

  • 4月6日・7日・8日:第1回講習会
  • 4月20日・21日:第2回講習会
  • 5月4日・5日:第3回講習会
  • 5月12日:交流会開催
  • 5月18日・18日:第4回講習会

2.JA等による農園開設支援

農家が運営主体となる体験型農園を開設するにあたって、その準備を円滑に進めるために、JA及び弊社が、開設までの支援を行った。

実質的には、開園前年の7月に現地での打ち合わせを持ち、本格的に開園に向けた取組みをスタートさせた。9月以降は原則毎月1回の定期的な打ち合わせを重ねながら、それぞれが必要に応じて対応してきた。開園までに取り組んできた実施事項とそれぞれの役割を、あらためて整理すると下表のとおり。

はじめから明確な進め方や役割分担があったわけではなく、筆者からおおよその進め方の手順を提案し、園主ができることは極力自らやってもらいつつ、JAや筆者が必要な助言・提案をはじめ、フォローをする形で進めてきた。園主の取組み意欲が強かったからこそ、そのような形がとれたと言える。

また、園主のご主人がハード面に詳しく、施設・設備面の多くの部分を自ら行うことができたことや、利用者募集にあたっても、園主の長男が自らの足で2,000枚の案内チラシのポスティングし、また、タウン誌への広告掲載も園主からの発意と費用負担で2度行うなど、集客意欲が強かったことが、ほぼ予定どおりの利用者確保につながった。

開園までの実施事項とそれぞれの役割
名称名水湧く湧く農園
所在地秦野市平沢1080番地内
解説・運営・農家が開設・運営
・園主和田礼子と家族が協力して運営
・JAはだの及び(株)コアシスが開設を支援
栽培講習会月に2回程度、年間約15回、原則金・土の2回、繁忙期は3回開催
栽培品目数個人区画年間約20品目+共同区画3品目
利用期間4月~翌年3月末まで(冬季1ヶ月以内休園)
区画20m²×48区画(初年度、利用区画47区画、見本区画1区画)
別に共同区画有り
設備 ・給水設備(湧水から配水し、給水口複数設置)
・トイレ(2基)
・ビニールハウス(講習会開催、農具置き場)
・休憩所(ぶどう棚の日除け、テーブル・ベンチ)
・池(湧水の活用、ビオトープ)
利用料金以下の4パターンいずれかを選択
A.年会費:基本料金 43,200円(入会時一括払い)
B.年間費:基本料金+駐車場料金 54,000円(入会時一括払い )
C.月会費:基本4,320円×11ヶ月;(口座引落)
D.月会費駐車場込み:5,400円×11ヶ月(口座引落 )
・駐車場単発利用:300円/回
開園日2018年4月、第1回講習会:2018年4月6日(金)
イベント(予定含む)・入園者交流会:バーベキュー
・お茶摘み試飲会、コケ玉づくり
・夏祭(花火、スイカ割、ピザ)
・収穫祭
・新年会(餅つき)
共同区画初年度栽培予定品目(トウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモ)
サイト ・Home Page http://www.meisuiwakuwaku.com/
・FaceBook https://www.facebook.com/wakuwakunouen/

3.名水湧く湧く農園の開園にあたって

初年度から募集区画がほぼ埋まり賑わう農園

「名水湧く湧く農園」では、初年度の今年、50区画を募集し、47区画分の利用者を確保することができた。実際には園主のモデル区画を含めて48区画でレイアウトしたため、実質空区画はない状況である。

秦野市では民間企業のものを含めても、初の体験型農園の開園であり、周辺市町にもほとんどないため、市民にあまり認知されていないため、利用者の確保に不安もあった。募集を開始してしばらくは動きが鈍かったものの、追加のチラシや広告などの効果も現れ、結果的に実質的に全区画を埋めることができた。

実際に体験型農園の利用者募集に取り組んでみて、あらためてわかったこととして、以下のようなことが挙げられる。

  • 有効な媒体は、チラシのポスティング(2km圏)とタウン誌(市内)での広告掲載
  • 園主がもともと近所づきあいなど交友関係が広く、友人・知人が利用者に
  • 駐車場を用意し、広域からも集客、(15台分は駐車場込みの年間契約を選択)
  • 一方、行政やJAの広報、JA施設でのチラシの効果は小さい

不安だった栽培指導も大きな問題なく

園主が体験型農園にあたり最も不安だったのは、栽培指導である。農家とは言え、本来は菊農家であり、多品目にわたる野菜の栽培経験や知識が十分ではなかった。

開園前年に、園主がJAの営農技術顧問から指導を受けながら、作付計画どおりに試行してみたものの、初めて栽培した品目や、栽培に失敗してしまったものもある。1年のみの予行演習では、不安を残しながらの開園となった。

また、講習会で説明する内容についても、あらためて勉強しながら、講習会直前にぎりぎり間に合わせることの連続となっているのが実情である。

栽培講習会(ハウス内)

それでも開園後、実際に講習会を何回かこなし、園主も少しずつ慣れてきて、ここまで特に大きな問題はなく来ている。利用者の大部分が全くの初心者であり、園主が不安に覚えていた園主を困らせるような質問をしてくる利用者もほとんどいない。大半の利用者が、園主の説明どおりに素直に農作業をして、満足げに帰って行く。園主の人柄や丁寧な対応が好感を持たれている所が大きい。

栽培講習会(実演)

ただし、皆が初心者と言っても、その初心者の中でも、説明の理解度の違いや、わからない時の対応の違いもあって、区画を眺めてみると、野菜の生育状態などにバラつきも目立つ。

また、昨年までほとんどの野菜栽培の経験の無い園主の長男が、今年から「はだの市民農業塾(新規就農コース)」を受講している。その中で農家研修もあり、多品目栽培の農家から指導を受けることができた。そこで学んだことを、体験型農園の利用者の指導に早速活かしている。母親である園主曰く「思った以上に利用者に対して面倒見がいい」と、期待以上の貢献をしている。

利用者の農作業の様子

体験型農園の開設を躊躇している農家には、「栽培指導に自信が無い」という声が多いが、利用者が求めているものは、高度な栽培知識よりも、丁寧なコミュニケーションなのだと、あらためて認識される。

農園内で水遊びをする子どもたち

4.利用者の属性

すでに、利用者の特徴についても触れているが、あらためて客観的なデータも示しておこうと思う。

2018年4月に開園した農園の利用者は、5月末現在で、3つの団体を含めて44組となった(複数区画契約した団体利用者がある関係で、契約区画数は47区画)。その属性を見ると、以下のような特徴を挙げることができる。

(1) 年齢

利用者の代表者の年齢は、30歳代から70歳代にかけて、全体的に各年齢層バランスよくあまり偏りがない。市民農園の利用者が60歳から70歳代と、リタイヤ層に偏っていること比べて、比較的若い世代からの利用申込みがあった。

さらに、就学未満の小さなお子さんと一緒に参加する家族も13組いるなど、家族で参加する子育て世代も多い。また、3団体には保育園と大学のゼミも含まれており、その園児と学生も多数参加することから、全体的にはかなり若い人たちが大勢参加する農園となっている。

農園利用申込み者の年齢

(2) 住まいからの距離

住まいから農園までの直線距離は、「500m圏内」と「1km~2km圏」が最も多く、2km圏内で7割を占めている。体験型農園の利用者層は、近隣住民を中心としたものであることと、案内チラシを2km圏内にポスティングしたことなどが理由として考えられる。 一方で、10km以上の秦野市外からの申込みも6組あった。

農園利用申込み者の住まいからの直線距離

(3) 駐車場利用の希望

農園が所有する宅地化農地の一部を駐車場とし、年間利用(年間利用料1万円)の契約を設けた。このタイプを選択した利用者は全体の3割強にあたる15人となった。住まいが農園まで1km圏内が多いこともあり、その場合は駐車場利用をほとんどしていない。

農園利用申込み者の駐車場利用(年間利用)希望

なお、年間利用ではなく、その都度単発利用(1回300円)の駐車利用も可能としていることもあり、年間利用をしない利用者も、必要な時だけ単発利用して様子を見ている。

(4) 団体利用者

利用案内にあたっては、家族だけでなく、友人、団体、企業等、複数人での利用も可とし、1区画の利用人数の上限を10人までとしたところ、特に営業したわけではないが、団体として1企業(カーディーラー)が2区画、近隣お保育園が3区画、大学のゼミが1区画の申込みがあった。

まだ始まったばかりではあるが、団体利用者の場合は、それぞれ目的があり、その構成員が多数の場合は、作業の連続性が把握できないこともあり、一般利用者よりも農園側のフォローなどの負荷がかかる場合もある。

今後は、このような団体利用向けの農園提供についても、拡大の可能性の検討と考えられるが、それぞれのニーズに対応するには、他の利用者と異なるサービス提供や料金面について、検討する必要もありそうである。

5.さらなる体験型農園の開園推進に向けて

まずは体験型農園の第1号として、「名水湧く湧く農園」)が開園することができた。これを足がかりにさらなる普及拡大を目指したい。単純に当てはめることはできないが、仮に練馬区と同等の世帯当たりの需要があるとすると、秦野市の世帯数では合計で400区画程度は成立することが見込まれ、1つの目安とはなる。

今後地域的な偏りなく、バランス良く農園を配置することができれば、標準的な4~5園程度の農園数及び上記区画数までについては、農家が自身の所有農地で開設・運営し、自立的にほぼ全ての役割を担う「農家主体・標準型」農園を、JAによる開設支援等によって、普及・拡大をめざしたい。

今後の体験型農園の普及イメージ(横展開)

まず、第1号農園「名水湧く湧く農園」については、初年度は50区画程度からスタートしたが、収益性を考えるとできれば100区画くらいまでの拡大をめざしたい。現在の所有農地で、かつ体験農園以外の菊等の栽培も継続した場合は70区画程度までしか区画を取れないといいうのが園主の意見である。将来的に100区画を目指すには、近隣の生産緑地の借入も視野に入れて検討したい。また、収益性確保のうえでは、今回年間4万円に設定した利用料金の見直しも必要かも知れない。

今回の第1号農園が成功することで、これを倣って第2、第3の農園を開園しやすい環境となる。第1号農園の園主の協力を得て、農園での研修やノウハウ等の提供なども期待される。さらに、複数の体験型農園が開設された後は、秦野市の園主会を設置し、共通課題への取組みや相互研鑽などを行うことができ、さらなる体験型農園の発展も期待できる。

一方で、需要がまだ見込めるにも関わらず、体験型農園を自ら開設する農家がなかなか現れない可能性もあり、その場合には、JA等が開園までの準備に加えて運営についても支援をしていく「農家主体・運営支援型」の農園の開設を推進する方法もある。

さらには、市民農業塾の修了生などが新たな発想のもと、多様なニーズに対応して需要を新たに掘り起こすような農園の開設も期待したい。